八千代姐さん、張り切る。
連日、岡本一平全集からの話題ですが、大大阪時代を探訪した彼の随筆は、当時の大阪を知るための必読文献です。関大阪市長にインタビューもしています。花柳界や芸界もよく見物して、印象記を残しています。
新町の富田屋に上って、名妓八千代を座敷に呼ぶ話は特に面白いです。富田屋八千代は当時の超売れっ子芸者で、萬龍、ポン太、照葉などと並んで、ブロマイド売り上げトップクラスの名妓として伝説的です。
大阪の友人である吾八さんの知り合いの医者から紹介してもらい、吾八氏と連れだって富田屋へ上がったのが午後五時。待てど暮らせど肝心の八千代姐さんが芝居見物から帰ってこない。座敷付きの芸伎や仲居と午後十時頃まで無駄話を肴に飲んでいると、八千代姐さんがようやく、「おおけに」と手をついて登場。何とその声が、
「競売(せりうり)が風邪を引いて引籠って居る徒然に浪花節を唸ってる時の声である。水銀を飲まされた浄瑠璃の太夫が商売替をして雪駄直しの呼声をやるときの声である」等、とんでもない表現をされている。つまり昔、大阪のテレビのコマーシャルで「雁亭のママです」と言うのがありましたが、そんな塩辛声だったらしい。おまけにスタイルは五頭身ほどだったと書かれてます。
天は二物を与えず。それでも流石に明眸皓歯、客あしらいも巧みで、十二時過ぎまで楽しませて、お土産にと八千代姐さんは絵まで描いたということです。逆ですね。本当なら、岡本一平が描いてやるところですが、東京人はそんな野暮はしないようです。
タグ
2012年6月10日 | コメント/トラックバック(0) | トラックバックURL |
カテゴリー:お勧め本