月報こぼれ話
日本の全集に付き物の月報は、暇つぶしに最適の読み物です。楽に書いたエッセイ風が多いのですが、力の入った文章もたまにあります。
岩波の「日本古典文学大系」第46巻の月報に、秋山虔氏が山岸徳平氏が注釈した源氏物語を評した文が掲載されてます。大先輩の業績に対して、大変へりくだったような、賞賛の形で始まりますが、途中から注文を出し始めます。それも大変気を使った表現で。特に、山岸博士が、本文をわかりやすくするために、会話文に「」を付けたことが少し気になるらしい。引用します。
「すなわち、強いていってしまえば間接話法の文章と考えられないこともないのであって、「」のフルな利用が、かえってこうした微妙な文体の性質を置きすてることになりかねないという印象をもつ場合がないでもない。」
どうですか、まわりくねりながら、すごく気を使いながら、「ゆうたった」と言う感じがします。
それにしても学者さんの間の物言いは、デリケートな精神がいるみたいですね。
それが、月報という、さりげない場でのことだけに、事はより一層微妙でもあります。
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2011年10月31日 | コメント/トラックバック(0) |
斎藤家vs幸田家
暇なので、先日亡くなった北杜夫氏にからめて、もの書く一族について。
全集分量的には、幸田露伴をはじめとする幸田一族が圧倒的です。露伴全集44巻、幸田文(露伴娘)全集23巻、幸田成友(露伴弟)著作集8巻。青木玉さん(幸田文娘)著作若干。青木奈緒さん(青木玉娘)著作少し。
一方、斎藤茂吉一族は、斎藤茂吉全集36巻、北杜夫全集15巻、全集以後の著作多数、斎藤茂太(茂吉長男)の著作多数、斎藤輝子(茂吉妻)の著作少し、斎藤由香さん(北杜夫娘)著作若干と、かなりのもの。数量的には断トツかも。
家族全員著述家では山口瞳一家ですか。奥さんは歌集を持っているし、長男の山口正介さんも回想や小説集を出されています。
山口さんと同じくサントリーの社員だった開高健一家も全員参加。開高健全集22巻、奥さんは詩人の牧羊子。詩集をはじめ料理関係の本もかなりあります。娘の開高道子も料理本を出していました。全員亡くなられています。
毛色は少し変わりますが中村メイコ一家もそうかも。メイコさんは自伝をはじめ何冊も、旦那の神津善行さんは音楽エッセーを書いてますし、娘のカンナさんも著作は多いでしょう。メイコさんの父親は中村正常で大正から昭和初期にかけての売れっ子作家。
芸能系では岸田國士一家もすごい。岸田國士全集28巻、娘たちが頑張ってますね。岸田衿子(谷川俊太郎と田村隆一の妻だったこともあるらしい。ビックリ!)は童話、岸田今日子は女優でエッセイスト。
吉行淳之介関係も全員、著作を持っています。父親エイスケは小説、母親のあぐりは晩年、かなりの本を書いています。妹たちも理恵は同業の詩人で作家だし、和子さんは女優ながら軽妙な旅行記作家でエッセーもうまい。
才能は偏るのか、とびぬけた才能が他の人を少しずつ文筆の世界へと導くのか、微妙ですね。
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2011年10月30日 | コメント/トラックバック(0) |
後生畏るべし
昨日は岸和田方面の買取にお伺いしました。
無慮、千冊以上のコミック、小説本を買わせていただきました。驚いたことに、まだ中学生の方の、わずかニ、三年の蒐集とのこと。私の買取経験の年齢帯別では、圧倒的に蔵書数チャンピオンでした。
お母さんにお聞きすると、紙媒体の形でないと読んだ気がしないと言っておられるとのこと。頼もしいですね。ケータイや色々なディスプレイ形式での読書がじわじわと進行しつつある中、きれいにコンプリートの形で本を集め、読破してゆく。
こういう若い人が多くなって欲しいものです。
最後に、縛って玄関先に積み上げさせていただいた本をバックに、記念写真撮影を本人さん、されてました。ほほえましく拝見させていただきました。順調に読書を続けられることを心から願います。
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2011年10月29日 | コメント/トラックバック(0) |
さびしい古本屋
亡くなられた北杜夫氏を偲びたいと思います。
私のベッドのわきには、北杜夫全集全15巻が何年も積まれています。時々、手当たり次第にひきだしては何ページか読み、満足して戻す。これのくり返しです。ほとんどの作品は、新潮文庫で出た時点で読んだので、再読の筈ですが、実に新鮮です。ユーモアの鮮度が全く落ちてないのです。作家の充実期の集大成です。
これ以後も北さんは多作であり続けたので、全作品はこの倍の巻数でも収録しきれないかもしれません。
中でも私の好きなのは、実父の斎藤茂吉の事を語った作品です。岩波書店から出た茂吉4部作もよいのですが、それほどちからこぶを入れない、短い随筆の中に父親の姿を、半ばあきれ、半ば恐れ、半ば尊敬し、綴った作品に捨てがたい味があります。
怒るときはぶるぶる震え、好物のウナギを前にして目を輝かせ、夜遅くに帰りお手伝いさんが玄関の鍵を開けるまでのわずかの間も惜しんで、空中に指で字を書いて手習いする茂吉は、北さんの描写の中に永遠の姿を留めることができたのだと思います。
さびしくなりました。
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2011年10月28日 | コメント/トラックバック(0) |
古本屋のポケット
意味ありげな題ですが、丸谷才一さんの文化勲章受章に合わせただけです。
「男のポケット」、正直な話、愛読しました。当時、何に惹かれたのか。考えるに、丸谷氏の文体だったのでせうね。と、こんな感じで今も彼の影響は、私の中にかなりしつこく残ってしまっています。昭和51年に出版されていますので、就職の1年前です。24歳でした。
装丁、挿絵が和田誠氏。ゴールデン・コンビです。その以前からエッセイ集の装丁は和田氏でしたが、ブレイクしたのはこの「男のポケット」からでしょう。
丸谷氏の影響は、彼が参加した歌仙を読みだしてから、少しづつ醒めては来ていましたが(ここんとこ説明すると長くなります。はしょれば、歌仙の連衆の安東次男氏の気合いに比べて、軟弱なと思ったことでしょうか)、今回のような受賞報道を読むと、自分の年齢も改めて感じられ、又読み返してみようかなどと思っています。ただしエッセイですよ。彼の小説ではありません、あくまでエッセイ。
ともかく彼以後、一つの文章の中の「ーだ、-である」調と「-ですね、ーぢゃないか」調の混在があまり違和感を持たせず、むしろそれが自由闊達な印象を演出するようになった事は、言えるのぢゃないか。
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2011年10月27日 | コメント/トラックバック(0) |