高橋さん上陸
暑さも極まりつつありますね。1867年の今日、8月18日に高橋是清はサンフランシスコに上陸しました。仙台藩の留学生として渡米したのでしたが、悪い人間に引っかかってだまされて、奴隷として売られる契約書にサインをしたため大変苦労します。英語力は身についたが、こき使われるので、契約を解消しようと一日、外出を雇い主に求めますが「主人は生意気なっ、といっていきなり私の頬を殴った。私は殴られたひょうしに思わず屁が出た」と「自伝」中公文庫に書いています。
苦労して帰国してから英語力を使って教師をしたり、ボーイをしたり、日銀に入ったり、日露戦争の戦費のための外債募集に成功したり、ペルーの銀山経営に手を出して失敗したり、子爵になったりして、大蔵大臣、総理大臣になります。大蔵大臣は総理経験後も何度も務め、その辣腕ぶりは有名です。平成時代、単に総理をした後、財務大臣をしたことで、自分を高橋是清になぞらえて語った政治家がいましたが(今もいますが)、まったく格が違いすぎて噴飯ものでした。
ちょっと今の尺度では測れない、大きさ広さ深さを持った人物でした。最後は軍部の予算増強案をはねつけてうらまれて2・26事件で暗殺されて亡くなります。
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またキダ・タローさん
キダ・タローさんには著作が何点かあります。初めての本は写真の「コーヒーの店 大阪 」です。保育社のカラーブックスの一冊として昭和58年に出版されました。主に大阪市内、大阪府下の喫茶店、軽食店を訪ねて、写真と軽やかでユーモラスな文章で紹介しています。
私も喫茶店によく通っていた時代の本ですから、とても懐かしいです。文中、マスターやママの本名が書かれていて、詳しい地図もついていますから、当時の資料としても興味深い。
表紙の成瀬国晴さんが描いたキダさんの似顔絵、似てますね。
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変な外人
机の脇に積み上げている未整理の本の一冊を何気なく手に取ると古い岩波文庫の「お菊さん」でした。名前だけはお馴染みでしたが、全く読んだことはありません。物は試しと少し目を通すと、なかなか興味深いものでした。
作者はフランス人のピエール・ロティ。海軍士官で作家、フランス・アカデミーの会員にもなりましたからフランスでは大文豪、でも日本では余り名前は知られていません。彼は軍艦に乗って世界中を航海し、寄港した先々の経験や風俗などを題材に作品として発表します。ロティは1885年7月に長崎にも入港します。そして言葉は悪いですが、現地妻とともに何ヶ月かを過ごしたのですが、「お菊さん」はその経験を書いたものです。
いわば「蝶々夫人」のフランス版で、プッチーニのオペラでも海軍士官ピンカートンに蝶々さんを斡旋するゴローという人物が出てきますが、「お菊さん」にもカンゴロウという通訳兼洗濯屋兼斡旋人が登場して、出だしのところは「蝶々さん」とそっくりです。
ただ、読み始めたばかりですが、日本人に対してはあからさまな蔑視をしていて、ちょっと理不尽です。彼は鹿鳴館にも招かれたりしていますし、以後、時間を開けて再度、長崎を訪れていますから、少しは日本人を好きになったのでしょうか。
今や日本人は彼の作品は読まないですが。
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使ってみようか
時々、昔の人の言葉遣いを思い出して不思議な気持ちになります。100歳でなくなった祖母が「けなるい」という言葉を時々使っていました。これは上方落語に時々出てきますから私は耳馴染んでいましたが、今では使いませんね。
落語の中で丁稚が、お店こぞって芝居を見にゆくので嬉しくて、お向かいの丁稚に「けなるいやろ」と自慢をします。「うらやましい」という意味です。
その祖母の娘で今年99歳の叔母が、着物や生地を見て「この柄、こうとやわ」などとよく言っていました。「こうと」、何の事かわかりにくいですが、使い方から察すると「渋い」とか「趣味が良い」みたいな意味だと思っていました。
今日、ふと手にした新潮文庫版「北原白秋詩集」の中の「黄色い春」という詩の中に「黄色、黄色、意気で、高尚で、しとやかな」という一節の「高尚」に(かうと)とふりがなが付いていました。戦前の読み方ですから、今の読み方にする(こうと)です。
どうやら「こうと」は、趣味の良い、上品な、高尚な様子を表す言葉みたいです。
こんな事でも書いておくと、何となく言葉の賞味期限、使用期限がちょっとでも伸びる気がしますので。
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愛用者カード
かなり以前、旺文社文庫のネタで何回か書いたと思いますが、また久しぶりに旺文社文庫です。今回は文庫そのものではなく、挟み込まれていた愛用者カード(はがき)についてです。
のっけから引っかかったのですが、愛用者カード、という言い方、ちょっと変ですね。普通でしたら「愛読者カード」でしょうね。本を受験道具の一つとして捉えていたのかも。まあ、それはともかく、これはどの出版社も昔は挟んでいましたね。市場調査の情報収集にはもってこいの武器です。
はがきの頭に書かれた挨拶文が良いです。「このカードは電子計算機のカードです。旺文社が最新の電子計算機を用い、愛用者のみなさんに関する記録を、その記憶装置に記憶させ、今後、永い間にわたって、サービスを心掛けたいと願って特にくふうしたものです。ぜひ正確に記入してください。(記入は、必ず黒の鉛筆(HB、Bなど)でお願いします)」
なぜか、試験の注意事項を読んでるみたいで少し怖い。ちなみに、挟んであった文庫は「海潮音」昭和47年の初版ですから、コンピューターが企業に実用され始めたらしい時代が文面に感じられます。
記入方法は電子計算機に直接読ませるマークシート方式です。年齢を聞く欄は細かく分けられていて、7才以下、それから8才、9才、10才と続き、24才まで1才ごとに記入できます。それ以上は25~9才、30~9才、などとなって、最後は50才以上、と大まかになります。まあ旺文社ですから、ターゲットはそうなるでしょうね。年寄りはお呼びじゃない。
学校での学年を聞く欄でも、小学1年から始まって大学4年まで1学年づつ細かく分けています。浪人欄もあり、1浪から3浪までご用意されています。3浪以上してはいけないのかな?!!
その葉書を送り返したら抽選で賞品が当たったようです。1等 2名 高級置時計 2等 5名 蛍光灯スタンド 3等 20名 旺文社特製万年筆 4等 100名 旺文社特製文鎮 5等 500名 ブック・カバー1組、と質実剛健なラインアップの賞品です。遊びが微塵もない。
1等賞品は腕時計のほうが絶対良いのに不思議ですね。ご両親も巻き込んで喜ぶようにした深謀遠慮かも。それにしてもいくら昔でも文鎮なんか当たって嬉しいかなあ。
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