さびしい古本屋
亡くなられた北杜夫氏を偲びたいと思います。
私のベッドのわきには、北杜夫全集全15巻が何年も積まれています。時々、手当たり次第にひきだしては何ページか読み、満足して戻す。これのくり返しです。ほとんどの作品は、新潮文庫で出た時点で読んだので、再読の筈ですが、実に新鮮です。ユーモアの鮮度が全く落ちてないのです。作家の充実期の集大成です。
これ以後も北さんは多作であり続けたので、全作品はこの倍の巻数でも収録しきれないかもしれません。
中でも私の好きなのは、実父の斎藤茂吉の事を語った作品です。岩波書店から出た茂吉4部作もよいのですが、それほどちからこぶを入れない、短い随筆の中に父親の姿を、半ばあきれ、半ば恐れ、半ば尊敬し、綴った作品に捨てがたい味があります。
怒るときはぶるぶる震え、好物のウナギを前にして目を輝かせ、夜遅くに帰りお手伝いさんが玄関の鍵を開けるまでのわずかの間も惜しんで、空中に指で字を書いて手習いする茂吉は、北さんの描写の中に永遠の姿を留めることができたのだと思います。
さびしくなりました。
タグ
2011年10月28日 | コメント/トラックバック(0) | トラックバックURL |
トラックバック&コメント
この投稿のトラックバックURL: