吉田さんと大和

今日1月6日は「戦艦大和ノ最後」の著者、吉田満の誕生日です。1923年生まれですからちょうど生誕100年です。



「戦艦大和ノ最後」はいろんな形で出版され、文庫本にも何度かなっているのでお読みになった人も多いと思います。初めての出撃で沖縄の海に沈んだ戦艦大和に少尉として乗り組み、九死に一生を得て生還。吉川英治に勧められて執筆。小林秀雄が雑誌「創元」に掲載しようとして占領軍のために全文抹消。占領終了後、初めて単行本として世に出て、感銘を与えました。



漢文体の読み下し文のような簡潔な叙述で、沈みゆく巨艦とその乗組員を記録して、叙事詩としての性格も備えた名文です。ただの戦記文学とは明らかに異なり、不朽の命を持つ作品です。



御本人はそののち、サイダー瓶の破裂によって右目を失明、またご自宅が全焼、発病など、いろんな災難に会われますが、死を前提にした大和乗組員時代の経験に比べたら何ということはない、と恬淡とされていたとのこと。



戦中派は、自分の命を問わない教育の結果、一度捨てた命だからと戦後もがむしゃらに働き、肉体酷使の習慣を身に付けたままぽっくりと50代で死ぬ人間が多い、悲しいことだ、大いに長生きしようではないか、と御自分でも書かれていましたが、結局、それが絶筆となり昭和54年に56歳で亡くなられました。日銀上層部の現役としての死でした。



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早熟

今日12月12日はフランスの作家、レイモン・ラディゲの命日です。1923年に亡くなりましたからちょうど没後100年。生まれたのが1903年ですから今年は生誕120年の年でもあったわけです。



アニヴァーサリーが重なっていますからさぞや出版界は意気込んだかと思うとそうでもありません。まあ、彼は20年ちょうどしか生きなかったので、作品数が少なく、ほぼ完璧な全集が日本でもかなり以前に出ていましたから、今更感が強い。



彼の得意とした心理小説が日本で人気家があるかというと、案外そうでもなさそうです。彼もサガンと同じようにフランスの恐るべき早熟作家として持て囃されただけかもしれません。



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先駆者

エッセイが好きで色んな分野の人のものを乱読しています。小説家や評論家、学者などは筆を持ち慣れているのでエッセイをものす人も多く、よりどりみどりです。それ以外の芸術関係の分野ならば画家の分野に名エッセイストが並んでいます。代表的な人に中川一政、鏑木清方、小出楢重、鍋井克之、藤田嗣治等、枚挙に暇がありません。



音楽部門でも古くは宮城道雄から、岩城宏之、芥川也寸志、武満徹、青柳いづみこ、中村紘子など多士済々。私が今回ご紹介するのはピアニストの園田高弘です。



今でこそ日本人演奏家は世界の楽壇を駆け巡って演奏していますが、1950年代はこの園田高弘が一人で頑張っていました。つまり単発的に演奏会をするのでなく、向こうの音楽シーズンの中で途切れること無くコンスタントにお声がかかる演奏家としては、小澤征爾氏以前は園田高弘唯一人だったと言えます。



若い頃のお顔は若い頃の遠藤周作と瓜二つで、笑えるほど似ています。彼のエッセー集はたった2冊しか無いのですが、その1冊、「音楽の旅」みすず書房刊は今読んでもみずみずしく、文庫化してほしい本です。



正に先駆者としてヨーロッパ楽壇に打って出てゆく有様がビビッドに日記形式で綴られていて、誠に清々しい。その不安、希望がない混ぜになった心理が見事に表されていて、ヨーロッパと日本という、古くて新しい問題の切り口が鮮やかに示されています。



一読をオススメします。当然古本屋さんで探して下さい。



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2列目

蔵書家の人たちは本棚を有効に使うために本を2列に並べることが多いようです。つまり前後2列。後ろの本は見えません。



私達古本屋も倉庫の書棚は2列配置が当たり前になっています。その上に隙間があれば本を横向きに詰め込んだりしているので、後ろの列の本を見ることはとても面倒になり、死蔵になりがちです。2列めの本たちはいつになったら陽の目を見るのか、あてど無い日々を送るのです。



時々は、と言っても数年に一度ですが後ろの本を取り出してやらないと本にも悪いので空気を通しますが、普段目に入ることの無い本がその時、輝いて見える事があります。本が時を得るのです。昔は売れなかった本が、いつの間にか今求められていることがあるのです。



池内紀さんに「二列目の人生」というエッセー集があります。単行本は晶文社、文庫版は集英社文庫です。隠れた異才たち、という副題のとおり、第一線の輝かしい天才たちの影に隠れがちな、地味だがしかし、かけがえのない才能を秘めた人たちのことを二列目と形容して綴った本です。



二列目は、決して貶めていった言葉ではありません。その人のあり方、処し方として前に出なかっただけのことで、第一列目に決して劣る存在でない、とその本は語っています。



書棚の奥の二列目の本を見ていると、ふとそんなことを思いました。



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庄野さん

今日は児童文学者、小説家、教育者の庄野英二の亡くなった日で、ちょうど没後30年になります。兄弟に庄野潤三や庄野至がいます。三人とも気持ちの良い散文を書き、根強い人気が読書家の間で持たれています。特に庄野英二はあけっぴろげの人柄が文章に横溢して、読むと気持ちがすっとします。



彼の「にぎやかな家」という作品は自分の家を新築する話ですが、設計を画家の小出楢重の息子さんに頼み、少しへんてこな家になった経緯をユーモラスに描いています。台所の寸法が当初の設計図面よりかなり小さくなり、後で奥さんが苦労をするのです。頼んだ人も頼まれた人も大して気にしないでおおらかというのが救われます。それでもその小さな台所で大人数のお客様の料理をささっと作っていたというのですから、奥さんも大したものです。



串田孫一みたいな絵も描き、素朴で大変いい絵です。



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