一枚の葉書から
先日の市で仕入れたゴタゴタの中から、中勘助夫人の和子さんの葉書が出てきました。宛先は大阪の人です。昭和41年6月17日の消印があります。
中勘助は前年昭和40年5月3日に亡くなっています。その一周忌にお参りしてもらった事へのお礼状です。
前半は通り一遍なお礼の言葉ですが、後半、「小宮さん、安倍さんがなくなられ淋しくなりました」とあります。
たぶん小宮豊隆、安倍能成の事だと思います。共に漱石門下同士の付き合いでしょう。安倍能成は中の葬儀委員長を務めているほどです。
葉書の文章は表まで続き、宛先を書くスペースの下半分まで使っています。こちらには、「一昨日和辻様へ全集完成のお礼に伺い」という言葉が出てきます。和辻哲郎の事に違いありません。岩波文化人総出演です。
中勘助の1回目の全集は角川書店から出ていますが、中が死んだ年の秋に完成したのです。和辻哲郎は角川版昭和文学全集に1巻を占めたり、「イタリア古寺巡礼」を角川文庫から出したり、角川と結びつきが深かったので、中の全集出版にも手助けをしたのでしょうか。漱石門下生の結束の強さをがこんな処からも感じられます。
そういえば、阿部次郎(この人も漱石門下)の有名な「三太郎の日記」も、戦後は角川書店のドル箱でした。
一枚の古い葉書から色んな事が浮かんできます。だから紙モノは面白い。
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2013年11月7日 | コメント/トラックバック(0) | トラックバックURL |
カテゴリー:作家のこぼれ話