島村抱月を読め❢
今現在、この本を読んでいるのは日本中、いや世界中で自分ひとりと確信できる時があります。というか、私の読書はほとんどがそうだろうと思います。
今日も今日とて、島村抱月の「影と影」という作品集を手に取っています。大正2年の出版ですから100年以上前の本です。
植竹書院の現代傑作叢書の一冊。文庫サイズの小型本ながら橋口五葉の華麗な装丁が美しい。
その中の「野犬」と言う小品に心ひかれました。
主人公(たぶん抱月自身)の家の軒下に野犬の牝犬が仔犬を三匹生み落とし住み着くのです。近所の人が物騒だから撲殺しようというのを、もう少し大きくなったら出してしまうので、その時にして欲しいと、しばらく住まわせます。
母犬はどこかで乳になるものを食べてきては戻ってきて飲ますのですが、近くに見慣れない人がいる時は用心して、家にも決して近づかない。主人公の家の人だと、ちょっと立ち止まって顔色をうかがった上、頭を地面にすりつける様に垂れて、遠慮しいしい床下に入るそうです。
仔犬が大きくなったので、そろそろ追い出そうかと言っていると或る日、母犬は一匹づつ向かいの草むらに仔犬を連れ出して、全員揃うと嬉しそうに何処かへ行ってしまいます。
これだけの話ですが、きびきびした筆致で母犬、仔犬の様子が描かれ、犬好きの私には又と無い読み物でした。
島村抱月と言うと、明治の古臭い美文調の作品かと思っていましたが、あにはからんや違っていました。現代の文章として読んでも違和感が全くありません。
是非読んでください、と言っても難しいでしょうね。池崎書店で買うしかありません。
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2016年7月16日 | コメント/トラックバック(0) | トラックバックURL |