神風 玉の海 吉田秀和さん
相撲の話題をもう一つ。
最近の相撲放送にあまり興味が無くなった事を書きましたが、以前に比べて、解説者が劣ることも理由の一つです。
NHKの中継は、今でも車の中で聞かないことも無いのですが、概して解説が魅力ない語り口で、興ざめです。唯一聞かせるのが北の富士勝昭さんただ一人というのは寂しい。北の富士さんは取口の分析も要点を伝えて明快、それ以上に、怖いものなしの毒舌が聞かせる芸になってます。つまりユーモアに包めてるということでしょうか。
世評が高いのは舞の海秀平さんの解説ですが、彼が「今の○○関の気持ちは、多分ゆれてるんじゃないかと思いますね」などという様な心理分析もどきを多用するのが、聞いてられません。アナウンサーがそういう発言をするようにリードしている節が見えることもあります。
NHK大相撲中継は、過去に玉ノ海梅吉さん、神風正一さんという二大名解説者を擁していました。二人とも現役時代は関脇が最高位でした。玉ノ海さんはゆっくりした口調で滋味溢れるユーモラスな解説。横綱同士(大関同士だったかも)の明らかな無気力相撲の解説で「何と言うか、まあ、うるわしき友情ですな」と放送した事は有名です。神風さんは、明晰な口調で相撲前に展開を予測、終わってからの分析も無駄なく全体の流れを俯瞰しながら、勝負のカナメを指摘するという、これが解説だという見本のよう。
吉田秀和さんがお二人のファンで、音楽批評の世界で二人に匹敵する人がいるだろうか、ということをエッセーで書かれていたと思います。
吉田さんはご自分の音楽批評の鍛錬になるかと、ある時、取り組みの一番を見終わると、立ち合いから決まり手までを文章で表わすことを試みたと書いておられます。ごく短時間内に次々と生起する動きの中で、勝負に決定的に影響する動きと、それ以外の無駄に見える動き、それらを要領よく時系列に記述することの難しさを吉田さんは語っています。
名人はどの世界でも名人なんですね。
吉田さんの相撲エッセーをお読みになりたければ、白水社版「吉田秀和全集」の第10巻にまとまって収録されています。
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2012年1月19日 | コメント/トラックバック(0) | トラックバックURL |