全集=番付 その3
「解体する文芸」で中島和夫さんは、舟橋聖一さんのクレームから広がった騒動は、髪の毛が白くなりそうだったと回想されています。
結局、舟橋聖一さんの作品は、講談社の「日本現代文学全集」に収録できなかったのです。all or nothingというところでしょう。
当初、収録を予定していて、収録できなかった作家がもう一人おられました。
久保田万太郎さん。こちらも、二人で1巻にこだわられたようです。その直前に出た文学全集で久保田さんは初めて一人1巻になった。それから文化勲章を授与された。で今回、この文学全集でまた二人で1巻に戻るのは、何となく気が進まないので辞退したいという理由だったそうです。文化勲章を持ちだすあたり、手が込んでいて、ちょっと応対に困りますね。
編集者と言う仕事も大変だと、つくづく思います。
一人1巻どころか、一人で2巻を暗に要求したらしい谷崎潤一郎さん(中央公論社の「日本の文学」編集会議の時。その席で川端康成さんに「君も2巻にしないのかい」と声をかけて、川端さんは「いや、私などは1巻で十分」と返答されたとのこと)や、要求もしないのに2巻をあてがわれて、「売れ行きは大丈夫か」と心配したという正宗白鳥さん(筑摩書房の「現代日本文学全集」時)、近いところでは無断で宣伝パンフレットに収録予定と書かれて、作品の収録をことわった村上春樹さん(小学館「昭和文学全集」時)など、文学全集を巡る色々なケースは、人間学の生々しい現場でもあろうかと思います。
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2012年2月18日 | コメント/トラックバック(0) | トラックバックURL |