百閒おびえる

1918年から1919年にかけて世界中でスペイン風邪が猛威をふるいました。もちろん日本でも大流行しています。



私の愛読する内田百閒も百鬼園日記帳の大正八年二月七日に「もう一日寝てゐた方がよいと思ふのを少し無理をして起きた(中略)まづただの風邪で有り難かつた。インフルエンザは実に恐ろしい。毎日三百人の死者がある由」と記録しています。まさに流行の只中です。この時期家族にもやたら発熱が多かったようです。なにかあると始終体温を計っています。



しかしその割には勤め先の学校へはほぼ毎日通っていますので、学校閉鎖などは無かったみたいです。あちらこちらにもしょっちゅう出かけています。と言うか、借金、金策のために出ざるを得なかったのが実情です。こちらはこちらで面白い話が満載ですが、今日はともかくスペイン風邪と内田百閒の話題を時節柄ご紹介しておきます。



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いい時代

読み捨てにされがちの月報類のことを時々書いてます。今回は特に誰も読まなかったであろう、河出書房が1951年に出版した「近代日本文学講座」の月報第3号から。



国文学者の湯地孝が「菊池・芥川の生態」という回想を載せています。しかし「生態」はひどいですね。野生動物じゃあるまいし。



高校時代の湯地が上級生の羽仁五郎と一緒に高校文芸部の懇親会に二人の出席を求めにゆきます。アポ無し訪問でしたが、菊池は気安く玄関先で応対してOKをくれました。次にその足で芥川を訪問するとこれまた、会ってくれたばかりか書斎に招じ入れて色々話をしてくれる大サービス。



帰ろうとすると何かと引き止めて、君たちがいてくれると原稿に取り掛からなくて済むからね、などと居りやすいように気を配ってくれたそうです。やっぱり芥川は東京下町の生まれですから根が社交的で人懐こいのでしょうね。



当時、もう二人は売れっ子の作家です。のんびりした時代だったんでしょうが、初対面の高校生相手に、今では信じられないですね。羽仁五郎の長い顔に恐れをなしたのかも。



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連想

昨日は古本屋が大好きな、講談社文芸文庫のことを書きましたが、少し前までは古本屋は中公文庫が大好きでした。珍しい著作を次々と文庫化して古書価も高いのがゴロゴロしていました。



石光真清の「城下の人」「曠野の花」「望郷の歌」「誰のために」4部作もそんな本の一つです。熊本生まれの陸軍軍人の回想録ですが、明治大正期に、対ロシアの諜報活動に従事したことで有名です。この人の年譜を見ていると彼の娘が東季彦という人に嫁しているのが目に付きました。どこかで見たような名前だと、もう少し見てゆくとこの東夫妻の息子が東文彦だと判りました。



石光真清の孫が三島由紀夫の親友に結びつきました。三島は学習院時代、文彦から祖父の石光真清の話を聞いたに違いありません。そして神風連の事なども、と連想は続きます。



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病弱にタバコ

先日、福永武彦さんの「ゴーギャンの世界」という本の事を書きましたが、福永さんは私の好みの作家です。その理由は彼が病弱だったからです。私も小さい頃は1年間学校休みを2回しましたから立派な病弱でした。病弱な人が文学をするのか、文学に打ち込むから病弱になるのか、よく分かりませんが、私の好む作家は病気持ちが多いのです。



福永さんは肺結核で結核病棟に約5年半おられて回復されてからも、胃潰瘍、その他で3,4年に一度は入退院を繰り返されるという病気の問屋でした。エッセイなどにも病気や入院話が沢山出てきます。ただし気質はカラリとされていた為か明るいのです。結核病棟でベッドの上に小さな机をしつらえてその上にペンと原稿用紙と灰皿を置いて創作したと書かれています。灰皿ですからタバコを吸っていたわけです。



病棟ですから当然禁煙ですが、気にしない患者さんばかりだったらしく、回診のときなどは一斉に窓を開けて換気したとか。実は私の親戚の人が20年ほど前に大阪府下のとある結核病棟に入ったのですが、やっぱりタバコを吸っている人が多かったと言ってました。本人も吸っていました。病棟に入院してからタバコを覚えた人もいるらしいです。



こうなるとどうなんでしょう。喫煙率高そー。



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意外な人が

作家の日記や書簡を読むのは、先品を読むのに劣らない楽しみです。今日も今日とて木山捷平の「酔いざめ日記」講談社刊をさっと拾い読みしていて、ある箇所に目が止まりました。



「カントリー」や「ゴルフ」という文字が目に入ったのです。木山捷平という作家は、文学書が売れない古書業界でも例外的に高値を維持している作家です。ユーモラスな詩や私小説に熱烈な愛読者を持っています。庶民派と言ってよく、ゴルフと彼のイメージが一致しません。昭和42年5月8日月曜の日記に「北海道旅行五日目。ホテル雷電泊り。高原ホテル前の洞爺湖カントリーにてゴルフを二コースなす。生れて初めてのゴルフ。(後略)」と書かれています。



トランプさんや安倍さんじゃあるまいし多分、二コースというのは2(ツー)ラウンドのことではなく、2ホールのことでしょう。



洞爺湖カントリーというのは今は無くなっているようですが、生まれて初めての人に2ホール回らせてくれるというのも、のんびりした話ですね。スコアは残念ながら書かれていません。



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