も一つ山藤さん

もう少し山藤さんのことを。



彼のイラストの代表作は週刊朝日に連載されたブラックアングルだと思うのですが、ここでは絵だけでなく、画面のあちらこちらに文章が埋め込まれていて、画文一体になって面白さが倍加しています。



山口瞳さんや林真理子さん、井上ひさしさん、その他大勢の作家たちが100回連載のエッセーを書いて山藤さんが挿絵を担当している本も多いのですが、そこでも本文に負けないほど山藤さんの文章が挿絵に加えられています。これは現代の黄表紙ではないかと思います。



江戸時代の黄表紙も挿絵が大きく書かれ、本文は絵の周りを縁取るように置かれています。絵の説明なども入り、それは滑稽、洒落、うがちなどが主体で、まさしく山藤的世界なのです。



驚嘆すべき才能でした。合掌。



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よくとろう

とても暑い日が続いています。今日7月24日は芥川龍之介が自裁した日です。昭和2年のことでした。その年の夏も暑い日が続いて、ある友人が龍之介の死を聞いて「芥川は、あまりに暑いので腹を立てて死んだのだろう」と悲しげに語ったとのことです。



言葉のうちには、芥川の体力が病気やいろいろなストレスのためにとても衰えていたことを悲しむ気持ちがあふれています。そのようなときに極端な暑さは致命的になることがあります。最近の暑さは芥川でなくてもこたえると思います。



睡眠をよくとり、水分をよくとり、冷気を出来るだけよくとって耐え抜きたいと思います。



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無視されて

カフカの没後100年が昨日だったらしいです。どうりで新潮文庫から立て続けに2冊も新刊が出たわけです。



カフカは宮沢賢治と同じように、草稿の形で多くの作品が残されました。残された、という言い方は変かもしれないですね。実は彼自身は草稿のすべてを焼き捨ててくれ、と友人のブロートに依頼して草稿を預けて死んだからです。ブロートはカフカの頼みを無視して、自分で草稿を整理してカフカの作品として発表してしまったのです。



その整理の仕方がカフカの制作意志と少しずれているのではないかという疑問が少しづつ起こり、最近の草稿研究で整理し直されて、今までとは随分と作品の印象が違う翻訳が出てきているわけです。



カフカからすればどちらにせよ、俺の気持ちを無視しやがって、かもしれません。



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吉行さん

今日、4月13日は作家の吉行淳之介の誕生日です。1924年生ですからちょうど生誕100年になります。その割には出版の世界でも、これといったイヴェントもないみたいですね。少し不思議。



昔だったら生誕100年記念で大規模な全集が出たりしたものですが、この人、生前にすでにかなり完備した吉行淳之介全集が合計3度、短編全集が2度、長篇全集が1度、エンタテインメント全集が1度出版されていますから、今更という感じかもしれません。



「夕暮れ族」「すれすれ」などといった洒落た言葉をはやらせたりもしました。銀座のクラブでのマナーにかけては達人だったようで「ももひざ3年、しり8年」なんていう教訓も残しています。ホステス相手にさらっとまったく嫌味なくタッチするにはそれくらいの年季がかかるらしい。



お父さんが作家、お母さんが美容師のあぐりさん、妹二人が詩人小説家と、女優というように、才能のある人ばかりの一家でした。



本人は遊び人で紳士で対談の名人、文章の彫琢にかけては文壇随一と言われていました。今はあまり読まれていないのが残念。



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くるっと

今日は山の文学者、小説家の深田久彌の誕生日です。小説もたくさんありますが、山の方では「日本百名山」が有名ですね。この本片手に、片っ端から登ってやろうという登山愛好家もお大勢おられることでしょう。最近では「日本百低山」というのも流行っているそうです。



この深田さんの奥さんが北畠八穂という童話作家です。奥さんだったと言ったほうが良かったかな。北畠さんが病弱だったので、深田さんが他の御婦人とよからぬことになって、結局離婚となりました。離婚した途端、北畠さんが「夫の小説の方の作品は殆ど私が書いたもの」と暴露して騒ぎになったそうです。



この北畠さんのエッセー集「透った人人」の中にちょっと意外の話がありました。北畠さんが鎌倉に住んでいた時、川端康成と親しくなったそうです。ある時、小林秀雄がやってきてオリンピック映画(おそらく戦前のベルリン大会)を見てきて素晴らしかった話をしたそうです。見に行けないので病床で気分が沈んでいた時に川端がやってきて、彼女を元気づけようと、「オリンピックをやってあげましょう」と言うなり羽織を脱ぐと、畳一畳の上でくるっとトンボを切ったと書いてあるのです。



あの川端が、とびっくりしました。まあ肥満タイプでないので可能でしょうが、歌舞伎の世界でも若手は練習すると言いますから、普通の人は怖くてとっさにはできないでしょう。



川端康成の隠れた一面でした。



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