月報の編集後記は語る

以前にも書いたかと思うのですが、私、実は文学全集好きなのです。

特に世界文学全集やら日本文学大系などといった大風呂敷が特に好きです。

それらに挟み込まれた月報も貴重ですが、各巻月報の終わりの辺りに置かれている、「編集後記」や「編集室だより」といった出版社の自画自賛の文章が面白い。

第一回配本から第十回配本まで辺りのそれらの文章はだいたい判を押したように、「編集室に、本全集に対するお誉めや激励のお便りをたくさん戴いており感激しています、これからも予定通りの配本を目指します云々」の類が多いようです。とても元気です。

これが後の方の配本、つまり全集が完結に近づくにつれ、「配本が遅れがちになり申し訳ありません、なるべく早くお届けしたいと思いますので、もうしばらくお待ち下さい」という哀願の調子になってくる。特に本邦初訳、新訳を誇らしげにうたっている世界文学全集の類ではかなりの確率でそうなります。

まるで忙しい時期の蕎麦屋さんみたいな言い訳です。「作ってるところです」「いま出ます」ですね。

つまり翻訳が難しい巻は配本順を最後の方にしていても、それでもなおかつ遅れてしまうのです。逆に言うとそれを読みたいと、待っている読者のイライラもつのってきます。

手元にある「筑摩世界文学大系」全102冊(昭和33年3月に第1回配本)の最後の方の月報はそういう苦しい言い訳ばかりでまことにお気の毒。

やっとあとは「ディケンズ」と「論語」と「コンラッド」の3巻を残すのみになったというのが昭和41年9月の時点です。月報には「間もなく訳稿完了いたします」と書かれています。まさに「いま出るところ」です。

ところがドッコイ、次に「コンラッド」が出たのが何と昭和42年12月。蕎麦なら伸び切っていますよ。しかも勝手に内容が変更されて当初収録が予定されていた目玉作品が収録されていません。天ぷらそばを頼んだら天ぷらが入ってなかったのと同じです。「ノストローモ」という作品が翻訳できなかったみたい。内容見本を見てこれを楽しみにしていた人の人権はどーなる?と言いたいですね。

次の「論語」は昭和43年3月。最後の「ディケンズ」はそれから更に1年以上経って、昭和44年7月に出ました。これでやっとこさ、めでたく完結。

最後の月報には、当然あるであろうと思われた編集後記すらありませんでした。その代りか、お詫びとお礼の書かれた小さな紙切れが挟まっていました。

当時の大学紛争のあおりをモロに受けて、先生方が翻訳どころではなかったんだろうと思いますが、「完結したんやから文句ないやろー、コラ」的な開き直りにも見えます。




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弥太郎さんをなだめる

筑摩書房刊「明治文学全集」は全集の値崩れ激しい現代でも、ある程度の相場を保っています。

編纂方法に筋が通っていて、他に代えがたい内容だからでしょう。

その中の一冊、「明治記録文学集」に収録の横山源之助著「明治富豪史」は関係者からの聞き書きが貴重で、面白いです。

三菱創始者の岩崎弥太郎が癇癪を起こすと家では誰もなだめられず、家中戦々恐々で手がつけられなかったとか。そこで、弥太郎の気性を飲み込んだ芸妓が夜中でも本郷の屋敷へ、人力車差し回しで呼ばれたそうです。

部屋に入ると百目蝋燭を4,50本、明々と灯した中に弥太郎が一人あぐらをかいてうつむいて黙って座っていて、前に銚子が何十本も並んでいる、という殺伐とした光景だったそうです。

大富豪になるような人は、なかなか気難しいのでしょうね。このお姐さんは酒の相手をしながら上手に弥之助の気持ちをほぐしたと書いてありました。


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ぼやく月報

全集本などに挿んである月報が面白い事は何度も書きました。

最近も愉快なのに出くわしました。昭和はじめ頃に出ていた「日本名著全集」に「書物愛」と題された月報が付いています。

滑稽本の巻では、出版社の色々な自慢やお願いが満載です。

「またしても(配本が)遅れましたが、総紙数千三百頁、その内容の凝り加減、これでは遅れるのも無理でないと思召さるる事と、出来て見てわれ乍ら驚いて居ります」

「お蔭様で(予約)会員は益々増加致しますが、まだ足りません。現在数二万七千五百人では、どうしても十呂盤(そろばん)がとれません。ゼヒとも三万にしていただき度いと念願に堪へません。三万に達すれば、そこでピッタリ締切って、どなたの、如何なる御縁故関係の御紹介でもお断り致します。どうぞ、三万に達せしめて下さい。もう少しのところです」選挙の立候補者みたいです。

「会費を生真面目に送って下さらぬ方のあるのには、一番閉口致します。そちらにしては高々一円七十二銭のことですが、こちらにしては其手数といひ、カードの整理といひ、とてもやりきれません。無精をなさらずに、当該事務の者をして、愉快に敏速に仕事の進行をさせるやうにして下さい」と滅ッ茶ぼやいています。無精はいけませんね。

「そこで困るのは発売禁止の懸念さるるものについてであります。例へば次回配本の「田舎源氏」の如き、どうかと心配して居りますが、会費さへお払込みおき下されば‥‥と思ひます。その辺御高察下すって、この事業を益々順調に向はしめて下さい」微妙な書き方ですね。「‥‥」の使い方が絶妙。たとえ発禁になってもこっそり送りますよ、という事かしら。ただし会費は払えよ、と釘刺すところは商売上手です。

出版社と読者の橋渡し役である月報の面目が躍如としています。


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2015年3月28日 | コメント/トラックバック(0) |

カテゴリー:古本 文学全集

岩波の男気

昭和11年に岩波書店から出た「漱石全集」に、「季刊・小山書店だより」という小冊子が挟まっていました。

小山書店の近刊案内です。岩波が他店の宣伝物を配布しているのです。

面妖な事と思いましたが、その内容を読んで、疑問が解けました。

その小冊子に、御大の岩波茂雄が「大方の諸君子に御願ひする」という文を書いています。

それによると、小山書店を設立した小山久二郎は岩波書店の社員だったが、独立して小山書店を開業した。彼は尊敬に値する出版人で、独立してから出した本は全て立派である。これからも応援したいし、皆様の御力も貸してやって欲しい。

こういった趣旨の文章でした。

岩波書店のドル箱出版物の「漱石全集」を使った応援。

岩波茂雄の面目躍如という感じです。

小山書店がチャタレー裁判で有名になるのはもっと後の事です。


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2013年7月17日 | コメント/トラックバック(0) |

カテゴリー:文学全集

月報読むべし

昔の全集物などに挟まっている月報。4頁から多くても16頁ほどの付録ですが、集めるとなかなか貴重な資料になります。

本体の全集や叢書類が時代の流れの中で無価値になっても、付録の月報には値段がつく事が古本の世界ではあります。

先日も、1960年に平凡社から出た「世界名著大事典」全8巻の付録月報を読んでいたら面白い記事に出くわしました。

トルストイの名作「クロイツェル・ソナタ」はロシア本国では公に出版できず、謄写版で密かに読まれていたのですが、当時ロシアに留学していたニコライ神学校の小西増太郎という人がそれを持ちかえり、明治28年に「国民之友」に翻訳掲載しました。

訳文を尾崎紅葉に手直ししてもらったとのことで、流れるような文章になったとのことです。

ロシア本土よりも先に日本で活字になって読まれたことになります。

この小西増太郎さんが、「何と申しましょうか」で有名な、野球監督、解説者の小西得郎さんの御父上だったということも木村毅さんが書いた「東西名著受難」という月報記事から教わったのです。

面白い、ちょっといい話が満載の月報、捨てないでくださいね。




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