月報ばなし

月報が好きです。月報と言っても、ある種の研究機関、業界団体などの組織が毎月出す、一種の報告書ではなく、昔の文学全集や個人全集が1冊ごとに挟み込んでいた別冊付録みたいな読物の事です。



大抵、文学全集だったらその巻に収録されている作家についての回想や簡単な作品論などが、8頁から16頁くらいにまとめられています。私が月報を好むのは、そんな薄っぺらい中に硬軟取り混ぜた短い読物が詰まっているさまが、松花堂弁当みたいに美味しそうに思えるからです。私は弁当大好きなんです。



本体に挟み込んでいるだけですから、いつの間にか抜け落ちる場合もあるでしょう。全集物などでは、これがそろっているかどうかで、古書価も少し変わります。



昔みたいに本を大切にする風潮があったころは、月報だけを自分で綴じたり、製本屋で本にしてもらったりすることもあったようです。出版社の方で全集完結後にその月報をサービス価格で製本する、なんてこともあったみたいです。



最近、文庫本の世界でこの月報が見直されているようで、昔の個人全集の月報などが講談社の文芸文庫でつぎつぎ文庫化されています。ついこの間、昭和20年代に出された中央公論社版の永井荷風全集の月報が中公文庫で文庫化されました。岩波版の荷風全集は入手がたやすいですが、中央公論社版はちょっとお目にかかれませんから、その月報はなおさら貴重で、文庫になったことを喜ぶ読書家や研究者も多いと思われます。



目の付け所、企画の勝利ですね。



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持参金

ジェーン・オースティンの「マンスフィールド・パーク」という小説を、BBCがドラマ化したDVDが安かったので買ってきて少しづつ見ています。この人は「高慢と偏見」や「エマ」などの小説で有名で、夏目漱石が激賞していました。



この「マンスフィールド・パーク」という作品は彼女のお得意の(というか、それしか書く能力がなかったのですが)イギリスの田舎の上流階級の恋愛沙汰、結婚沙汰を描いたものです。1700年代の終わりから1800年代初めの時代ですから、身分の違い、持参金の多い少ないなどが重要なテーマとして取り上げられ露骨に話されるので、今から読むと違和感しかありません。



それをかなり忠実にドラマ化しているので、なかなか見ごたえがあります。この手の作品は読んでいるだけではイメージするのが難しいので、映像から入って原作を読むほうが良いようです。原作は集英社の世界文学全集に入っていましたから古本屋で探してみてください。



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2026年2月19日 | コメント/トラックバック(0) |

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詩人の嘆き



昨日は、参加している市会の決算報告会、懇親会の事を書きましたが、その懇親会が始まる少し前に大先輩の同人であるキトラ文庫さんからそっと冊子を手渡されました。見るとキトラ文庫さんの古書目録「莢(さや)」でした。記念すべき第20号でした。



最近、こうした個人古書店の目録を見る事がほとんどなくなってしまいました。キトラ文庫店主の安田さんのお話では、きりの良いところで目録もやめようかと思っているとの事でした。世の中全てがペーパーレスのインターネット時代の中でも、紙に印刷された活字の媒体の持つ力を信じておられると拝察しました。でも世の流れには抗しがたいと漏らされていました。



安田さんは詩人でもあられ、上の写真の「昭和ガキ伝」を2018年に出されています。それ以前にも何冊も詩集を出されています。お若い頃、新宿ゴールデン街で酒場をされていて、その時の手伝いの女の子があの山田詠美だったことは古書業界では有名な話です。



今回の古書目録の冒頭に「新聞あれこれ」というエッセーを書かれています。学生時代のサークル活動での新聞発行や、大学時代に住み込みで新聞販売店で働いていた思い出などが淡々、飄々とお人柄そのままに語られています。



そして現代の、新聞さえ読まれなくなりつつある現状を見て詩人はそのエッセーの最後に書かれています。



「ああ、紙の新聞よ、新聞のカミよ!」



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大らかな傑作

今日2月13日は大阪出身の画家、小出楢重の命日です。1931年に43歳で亡くなりました。画業はもちろんのこと、随筆などの文筆でも高く評価されています。この人の息子さんが小出泰弘といって建築家です。絵も描いたそうですが、父親に比べられるからと、建築の道に進みました。



この息子のほうの小出さんに自宅を建ててもらったのが庄野英二さんです。お父さんが創立した帝塚山学院大学の学長をし、童話作家、随筆家、画家としても活躍しました。小説家の庄野潤三さんの兄です。



庄野英二さんに「にぎやかな家」講談社刊という本があります。これはその家が建つまで、建ってからのいろんなことを物語にした作品で、私は大好きです。どういう所が好きかと言えば、建築家も施主も大工もそろっておおらかなことです。



家族がいろんな希望を言って設計を頼んで図面がてきました。敷地の割に建物が大きな気がしたので「入りますかね」と尋ねると「まあ、はいりまっしゃろ」と建築家の返事。後日、三者が現地で杭を打って確認作業をしていると、大工さんが首をひねって、建築家が慌てだしました。図面通りだと家がはみ出ると分かりました。そこで彼は思い切りよく、図面のはみ出す部分に斜線を引いて削ってしまいます。建築家は何もなかったように「大丈夫、これで建ちます」



庄野さんがあきれて「測らなかったのですか」と聞くと、目測だけで大丈夫、と判断していたそうです。建築家もすごいですが、それを許してしまう庄野さんも大人物です。結局出来上がりましたが台所の調理スペースがほとんど無くなり、風呂の脱衣場のスペースが取れなくて居間で着替える羽目になったそうです。



子供たちの絵の先生として長年付き合ってその人間性にほれ込んでいたとはいえ、ここまで大らかになれるのは並や大抵ではありません。この傑作が今なかなか読めないのは残念です。



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長命な女流作家と芥川

ちょっと思いついて、長生きされた女性作家さんを調べてみました。ダントツは佐藤愛子さんでしょう。102歳でご存命です。その次が99歳の野上弥生子さん、同じく99歳の瀬戸内寂聴さん、98歳の宇野千代さん、94歳の佐多稲子さん、93歳の曽野綾子さん、91歳の田辺聖子さんたちが続きます。佐藤さん以外は没年齢です。



この中でちょっと地味なのは佐多稲子さんでしょう。プロレタリア作家としての経歴が関係するのでしょうか、最近読まれているとは言えないと思います。でも作家歴は長く、芥川龍之介や堀辰雄、中野重治たちと交流し回想なども書き残されています。佐多さんは睡眠薬自殺を図ったことがおありだったようです。それと関係した話として、佐多さんの随筆集「ひとり旅ふたり旅」の中に芥川龍之介の自殺3日前に会ったことが書かれていました。



芥川が堀辰雄に、佐多稲子(当時は窪川稲子)に会いたいと言ったので、当時夫だった窪川鶴次郎と堀辰雄に連れられて芥川に久しぶりに会ったとのことです。芥川は佐多稲子さんが自殺未遂者だと知っていたらしいです。顔を合わせると芥川は「あなたの飲んだ睡眠薬は何でしたか」と尋ねたそうです。それから、また死にたいとは思わぬか、とか、その後体は丈夫か、とか質問したとあります。



かなり不躾でその時は佐多さんはびっくりしたらしいです。でも3日後に芥川が睡眠薬自殺したことを聞いて、ああ、と納得したと書かれています。死に損なった人間の顔を見ておこうと思ったのでは、と推察しています。芥川らしい慎重さだとも書かれていました。



興味深い話だと思います。



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