肩の力が抜けると

小林秀雄の誕生日の事を先日書きましたが、それを機会に、永らく部屋の隅の方に積み上げてあった新潮社版「小林秀雄 全作品」全28巻、別巻4巻を引っ張り出してきて中身のチェックをしてみました。これは過去に出ていた小林秀雄全集の通念をひっくり返した新機軸満載の全集です。



まず新字新かなで全巻のテクストを統一しています。そして語句の注釈を脚注形式で採り入れました。簡易なソフトカバーで読みやすい装丁です。従来の全集では未収録だった作品も読めるようになりました。



一昔前の大学入試には定番のように採り上げられていた小林秀雄も、最近はそうでも無くなったのか、読む人もぐんと減ったように感じられます。彼の評論の種本なども広く知られるようになり、いっときの神通力も失せかけているようではあります。



それでも骨董や音楽、旅行などについての、肩の力が抜けた随筆などはなかなか味わいがあり、私は今でもたまに読み返しては、上手いなあ、と感心しています。



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二人は4月11日

昨日の4月11日は批評家、小林秀雄の誕生日でした。1902年生まれですから今年で生誕119年。来年が生誕120年ですから、きっと出版界では何らかの企画があるでしょう。それと竹西寛子さんが同じ4月11日生まれです。男女のすぐれた文芸評論家が偶然、誕生日が同じなんですね。歳は親子ほど離れていますが。



お二人共、これまた偶然にも新潮社から全集をお出しになっています。小林秀雄の方はほぼ完全な全集ですが、竹西さんは元気にご活躍中ですから、正確には著作集です。それでも女性の評論家の著作集としては最も大部なものでしょう。竹西さんは評論集以外に、素晴らしい小説や随筆も沢山お書きになっていて、私の好きな著作家の一人です。



ここで一つ予言しておきましょうか。今年中にお二人の共通点がもう一つ増えると思います。竹西さんの文化勲章受章です。遅きに失した感はありますが、多分今年でしょう。最近の女性の文化勲章受章者はウッソーという人選が多かったですが、竹西さんは本命中の本命。11月をお楽しみに。



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もう葉っぱが

桜もいつの間にか散ってしまいました。用事でよく通る道には桜の木が多いのですが、緑の葉っぱが鮮やかに出てきています。考えてみると昔ほど桜の花に気が惹かれなくなりました。花見などが気安くできなくなってるのも原因でしょうか。



検品していた木下杢太郎著「百花譜」岩波書店は、詩人杢太郎こと皮膚学者の太田正雄が昭和18年の3月から最晩年の20年の7月まで、色んな機会に写生した植物の900頁近い巨大な図譜です。鉛筆で輪郭を描き、淡彩で色付けをした実に静かで美しい絵ばかりです。



昭和18年4月12日に写生したソメイヨシノの図には鉛筆で「若い頃はソメイヨシノが心にしみて美しく思ったが、歳を重ねて見た今年のソメイヨシノからはそんな感じが消えている、人の心にも四季はあるみたいだ(大意)」と書き添えています。何となくわかりますね。



杢太郎の4月12日のソメイヨシノの図にはつぼみも描かれていましたから、東京としては時期的にはかなり遅い花でしょう。今年みたいにやたら早く花が開いてしまうと、桜をゆっくり楽しむ風情が無くなったようでものたりません。描こうと思ったらもう散っていた感じ。



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4月!

4月になりました。4月というとイギリスの詩人エリオットが、詩集「荒地」の中で「四月は残酷極まる月だ(西脇順三郎訳)」と書いたことを思い出します。冬の長く厳しいヨーロッパでは春の訪れが暴力的なイメージを伴っていることが想像されます。ストラヴィンスキーのバレエ音楽「春の祭典」もそのイメージの流れで私は鑑賞しています。



それらの背景には、キリスト教の復活祭がこの季節であることも影響しているかも知れません。今年の復活祭は4月4日だそうです。死んで蘇る。静から動へのダイナミックな転換を多くの人たちはこの時期に敏感に感じるのでしょうね。



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贅沢な画家

前にも書いたかも知れませんが、絵や彫刻を見るのが好きです。そしてそれを創った人のことを知ることも大好きです。それには、本人が書いた物が一番参考になりますが、幸いなことに画家や彫刻家には、洋の東西を問わず、文筆家が揃っています。デューラーやドラクロワの昔から、ゴッホやセザンヌやクレー、ロダンの近代まで、画論、随筆、紀行文、手紙、日記などなど、よりどりみどりです。



日本でも、岸田劉生や木村荘八、鏑木清方、東山魁夷、高村光太郎みたいに文章で大部の全集を残される人も大勢いるほどです。藤田嗣治も味のある随筆集を何冊か残しています。彼は、パリが文字通り世界の芸術の中心だった時分にそこで生活していましたから、その思い出を綴った文章も多方面に渡っていて面白い。



音楽はわからないと言いながら、ピカソやアポリネールとともにサティを囲んで彼の音楽を聴いています。また、ラヴェルが藤田のアトリエを訪れたり、逆にラヴェルが、同じ作曲家のオネゲルと藤田のための晩餐会を開いてくれたそうです。1930年に米国に渡った時にはギタリストのセゴビアと同船していて、藤田だけのために何曲か弾いてもらっています。実に贅沢です。ニューヨークに上陸すると、バイオリニストのシゲティとしばらく同室で暮したとか、信じられないようなことを事も無げに書いています。



よくぞ書き残してくれたと感心したりびっくりしたりです。「随筆集 地を泳ぐ」講談社刊に収録されています。



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