役者さんの雑誌にみる記憶力の話

役者さんには筆の立つ人が多いです。

森繁久彌さんや中村伸郎さん、芥川比呂志さんや池部良さんの名前がすぐに浮かびます。

書くのが好きなだけでなく、雑誌の編集までやってしまった人がいます。

文学座の手堅い脇役俳優だった宮口精二さんです。

この人が一人で創った季刊雑誌「俳優館」は、肩の凝らない随筆や対談、回想などが貴重な雑誌です。演劇好きの人にはこたえられない内容の雑誌ですが、あまり知られてないのが残念です。

拾い読みしていると時間が知らない間に経っています。たとえば竹柴蟹助さんという、歌舞伎の狂言作者の回想「黒衣から見た名優たち」では役者の記憶力の話が書かれています。歌舞伎役者の背後からセリフを付ける(プロンプターとしてセリフを小声で教えてやる)話です。大体、初日から三日程で覚える人が多いとの事です。

六代目尾上菊五郎や五代目中村歌右衛門など名優たちは覚えが早かったそうです。中でも、初代市川猿翁は抜群だったとか。

この人、今の市川猿翁さん、つまり宙乗りやスーパー歌舞伎で一世を風靡した三代目市川猿之助さんのお父さんです。ということは、そうです、半沢直樹から倍返しを食らった香川照之さんのお祖父さんになるのです。

逆に覚えが悪かったのが七代目松本幸四郎。松たか子さんのひい祖父さんです。

新作などではセリフが全く入らなかったと書かれています。全部後ろで付けたのですね。日蓮上人の役の時、「南無妙法蓮華経」というセリフがあり、これは知っているだろうと「南無」とだけ教えてやると「南無」だけ言って黙っている。仕方ないので「妙」というと「妙」だけ言う。結局全部付けたと、呆れたように書いていました。


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