ずるずる読み

仕入れた本、買い取った本を整理し、商品化の作業中、どうしても拾い読みをする事があります。前から読みたかった本や、知りたいテーマが書かれた本では、まず作業が中断します。

昨日は「中野重治訪問記」という岩波書店の本を手に取った時がそうでした。著者は松尾尊兌さん。近代史の歴史学者です。

私は中野重治さんが好きでして、詩、小説(「萩のもんかきや」が絶品)、評論、随筆等どれも面白い。厳密に表現しようとする意志が時として回りくどい、不思議なのたうつような文章になっていますが、基本的に明るく乾燥していて、結果、心地よい人間らしいユーモアが漂ってきます。

獄中から出した書簡が中公の文庫本になっていますが、河上肇の獄中書簡集に似た、家族愛と愛書趣味がないまぜになったような、良い味です。

その中野重治の家庭での様子が書かれているか楽しみでしたが、中野さんの発言の要約が多く、それはそれで貴重ですが、少し期待外れでした。

そうかと思うと、佐多稲子さんが銀座の「茉莉花」というバーで新庄嘉章さんと楽しそうにデュエットしていたと言う様な、実に意外な挿話があったりして、結局最後まで読んでしまったのです。


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