昔の辞典は捨てがたい その3
この「家庭百科」はお気づきのように少し色っぽいのです。
「サイレン・ラヴ」なる項目があります。「正午のサイレン(號笛)を合図に、オフイス勤めの若い男女たちが、ビルヂングの食堂や喫茶店などでささやく恋のこと」と解説しています。モダンな感じが昭和初年代です。
そうかとおもえば「サッカリン」の項では「サッカリンは決して世間で思はれてゐるほど有毒なものではない、飲食物取締規則で菓子やジャムなどに使用することを禁じてゐるのは砂糖の消費税を得ること、砂糖工業の保護(中略)せるための政府の政策によるのである。」と政府批判のようなことを書いて硬骨ぶりも見せているのですが、そのあとに「隠語で、男女間の間の極めて濃厚なことを形容していふ。サッカリンはすてきに甘いから。」と、すぐにデレデレ調に戻るところが面白い。
「サーヴァー」では「英語ーテニス用語。最初に打出す組。又、女学生間の隠語で、愛する人。」などと耳よりの知識を授けてくれます。吉屋信子先生の女学生小説を読むときの参考になりそうです。
「実弾射撃」は「現金を以て相手を虜にし目的を達すること。選挙の時の買収等を指すのに用ひらる。」本来の意味の軍事用語的な解説が一切無いのがすごいと言えます。
続きます。
タグ
2011年10月21日 | コメント/トラックバック(0) |
昔の事典は捨てがたい その2
家庭の主婦向けなので、この「家庭百科大辞典(以下家庭百科と略す)」は家事、料理、健康、などの項目が丁寧です。丁寧すぎることもあります。「アイロン」の項では微に入り細を穿ってアイロンの使用法を説明しますが、最後のアイロン台の説明で「和洋服兼用の極めて便利なホームアイロン台を婦女界代理部で取次いでいる。定価2円50銭。送料支払い。このホームアイロン台は折りたたみが出来て、非常に重宝である」と、急に通販のカタログみたいに変身するのです。この変わり身の速さが良いですね。
そうかと思えば突然「アウフヘーベン」が立項されていてびっくり。説明文も前半は哲学的に解説してるのですが、後半になって「近来マルクス主義の普及と共に、一種の流行語として、この言葉が使はれるやうになった。「おい、そんな恋愛なんかいい加減にアウフヘーベンしろよ」などと。ーこの場合の意味は、早く恋愛を通り越して、もっと高い心境へ到達しろ、といふほどの意味である」なんて説明されると、よし俺もアウフヘーベンしようかな、と乗せられそうなくらい明るく軽い。
「牛太郎」も項目になっています。「俗語-女郎屋の客引き男のこと」と明確に定義されていてあなどれません。「家庭百科」ですよ。編集者に粋人がいたようですね。
続きます。
タグ
2011年10月20日 | コメント/トラックバック(0) |
昔の辞典は捨てがたい
名辞典というものがあります。代表的なのは「言海」でしょうね。芥川龍之介が宣伝役のような格好になって、以来盛名はすたれません。ちくま学芸文庫にも当初の姿で収録されました。
文庫に収録された名辞典といえば、かなり前に講談社学術文庫に入った「和英語林集成」も見落とせません。この時は大いに歓迎されたと聞きます。残念なことは、原書の活字がかなりつぶれていて、それをさらに文庫サイズに縮刷したのだから、相当読みにくくなった。
その点、ちくま版の「言海」はかなり見やすいものです。
ちくま学芸文庫は少し前にも、昭和12年に三省堂から出た「婦人家庭百科辞典」を収録しています。現代の権威ある大辞典、大事典にも収録されていない細々とした家庭的項目がマニアックで、かつ時代相がよく出ているのが新鮮と言うことでしょう。企画の勝利です。私も元版を持っていますが、今の目から見ると「婦人、家庭」というよりも「少年少女物知り学習辞典」的な感じを受けました。姿勢がとても教育的で真面目なのです。
「婦人、家庭」の伴侶としての百科辞典を通じて当時(昭和初期)の世相、風潮、知識を探るならば、私はむしろ婦女界が昭和8年に出版した「家庭百科大辞典」をお勧めしたいと思います。
三省堂のが規範的ならば、こちらはぐっとくだけて世俗的に編集されています。三省堂の第1項目が「藍」、と常識的なのに対して婦女界は「合鴨」で、台所直結です。
実は、この婦女界版「家庭百科大辞典」は、引けば引くほどケッサクな項目説明が多く、楽しめるのです。
次回から少しご紹介しましょう。
タグ
2011年10月19日 | コメント/トラックバック(0) |
本の仕入れはいと楽し、支払い無ければなお宜し
昨日は、同人として参加している「二十日会」の市会日。事前の目録がかなり充実していたたためか、多くのお客様(業者)にお越しいただけました。最後の振りが終わったのが午後6時過ぎでしたので皆様ご苦労様でした。
本が集まり、新しい買い手の方のもとに旅立ってゆく。古本屋は一生これのくり返しです。
坂本一敏さんが「蒐書散書」とおっしゃられてました。集め散じる。とりわけ集める楽しさは際立っています。
今日は文学関係や映画書の関係で良い口がありました。池崎書店もよい仕入れができました。
即売会でご覧いただけると思います。その前に支払いが(汗)
タグ
2011年10月18日 | コメント/トラックバック(0) |
「たにまち月いち」終わりました
今日で古書即売会の長期ロードが一段落です。
いずれの会場でもお客様にお越しいただき、ありがとうございました。
次は11月11日(金)~17日(木)の「第12回弁天町オーク200古本祭り」です。
近畿一円の古書店が30店以上参加します。雨の心配がいらない、交通至便の会場でごゆっくりと古書探しをお楽しみください。
会場は環状線弁天町駅下車1分のオーク200です。詳細はまたお知らせいたします。
当店はそれ以外に、オークの会期中にもう1か所、音楽中心のフリマに参加いたします。これも近々、詳しくお知らせできると思います。
古書、古本を売りたい方は池崎書店にご一報ください。