続けて勘助
中勘助と言えば「銀の匙」と反射的に出てきます。
愛読者が多い作品ですが、問題をはらんでいたようです。
作中、幼い主人公(勘助)が星の事を「お星様」と言うと、14歳年上の兄が「お星様なんて言うな。星と言え」とかいう様な場面があるそうです。
この兄弟の確執みたいなものが実生活の上でも一生、中勘助には付きまとったのでした。
その兄の嫁に勘助がずっと仄かな思慕を寄せたり、心からの親友が、これも友達の安倍能成の家で自殺したり、医科大学の教授をしていた兄が若くして脳出血で倒れ後遺症が残り、兄嫁ともども勘助が面倒をみることになったり、そのしたわしい兄嫁が病気で亡くなってから、同じ年に58歳にして初めて結婚しますが、結婚式の日に兄が死んだりと、本当につらい人生を送られた訳です。
それ以後は15歳年下の奥さんと静かな人生を、静かな文を綴りながら、81歳で亡くなるまでおくられました。
その文章は日記のようであり、書簡のようであり、読むと、冷たい透明の水を呑むような気持ちがします。
登場する個人の名前を「□ □ さん」というように書くのが特徴的です。それが文章全体を清らかな白さに漂白するような効果があります。
漱石門下では内田百閒と並んで異色の人と言えるでしょう。
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2013年11月8日 | コメント/トラックバック(0) |
一枚の葉書から
先日の市で仕入れたゴタゴタの中から、中勘助夫人の和子さんの葉書が出てきました。宛先は大阪の人です。昭和41年6月17日の消印があります。
中勘助は前年昭和40年5月3日に亡くなっています。その一周忌にお参りしてもらった事へのお礼状です。
前半は通り一遍なお礼の言葉ですが、後半、「小宮さん、安倍さんがなくなられ淋しくなりました」とあります。
たぶん小宮豊隆、安倍能成の事だと思います。共に漱石門下同士の付き合いでしょう。安倍能成は中の葬儀委員長を務めているほどです。
葉書の文章は表まで続き、宛先を書くスペースの下半分まで使っています。こちらには、「一昨日和辻様へ全集完成のお礼に伺い」という言葉が出てきます。和辻哲郎の事に違いありません。岩波文化人総出演です。
中勘助の1回目の全集は角川書店から出ていますが、中が死んだ年の秋に完成したのです。和辻哲郎は角川版昭和文学全集に1巻を占めたり、「イタリア古寺巡礼」を角川文庫から出したり、角川と結びつきが深かったので、中の全集出版にも手助けをしたのでしょうか。漱石門下生の結束の強さをがこんな処からも感じられます。
そういえば、阿部次郎(この人も漱石門下)の有名な「三太郎の日記」も、戦後は角川書店のドル箱でした。
一枚の古い葉書から色んな事が浮かんできます。だから紙モノは面白い。
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2013年11月7日 | コメント/トラックバック(0) |
カテゴリー:作家のこぼれ話
古都奈良へ買取に
奈良県に出張買取にお伺いしました。
ポピュラー音楽関係と映画関係の本を沢山、買取させていただきました。
長年にわたって、丹念に収集された本達であることがはっきり判ります。
大切に扱わせていただきたいと思います。ありがとうございました。
小学生の息子さんが搬出手伝ってくれました、ありがとうございます!
お宅に向かう途中、法隆寺や中宮寺の横を通って行くと、何か、時間の歩みが遅くなるように感じます。
千年以上前から、同じ場所にあり続ける事ってすごいです。
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2013年11月6日 | コメント/トラックバック(0) |
カテゴリー:買取
乗り物が職場
お客様から電話で、スチュワーデスの本ありますかと尋ねられました。
多分在庫は無いので「ありません」とお答えしました。
スチュワーデスさん。懐かしい響きです。漫才師さんでスッチャデスと言ってた人がいました。
今はキャビン・アテンダントだとかいうそうですね。CA。少し冷たい感じです。
されている仕事は同じでしょうね。ながらく飛行機に乗ってませんのでよく知りません。
黎明期の日本の航空業界にあって、空の接客を担当した人たちの記録。成程、おもしろそうです、入荷したら是非とも読んでみたいです。
文春文庫に外国のお話で、お客さんに困らされた事を色々集めて書いた本があったような気がします。
もっと身近な存在でしたが、懐かしい、バスガールさんの本もあったら興味深いでしょう。初代コロンビア・ローズさんが歌う「東京のバスガール」などという歌もあったほどですから、馴染みがあります。
私なども大阪市バスのバスガールさんは覚えています。緑色の小さい切符にパンチを入れてくれました。こちらはすぐにワンマン・カーになって、仕事自体が無くなってしまいましたが。
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2013年11月5日 | コメント/トラックバック(0) |
新しい風が
世間様は三連休の最終日との事。
組合では豊書会の市会。文学、芸能関係の良書が沢山出品されていました。
フリでは美術関係のウブ口がどっさりこ。静かな熱の入った戦いが繰り広げられました。
12月に、大阪市西部の九条近辺で新しい古書市が開催されることになりました。当店も参加させていただきます。
詳しい事は又このブログでお知らせしたいと思います。御期待下さい。
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2013年11月4日 | コメント/トラックバック(0) |