売文社

黒岩比佐子さんの「パンとペン」講談社刊をパラパラと読みました。副題に「社会主義者・堺利彦と「売文社」の闘い」としてあります。黒岩さんは幅広く明治文献にあたって、村井玄斎や国木田独歩の再評価、伝書鳩の歴史、日露戦争の掘り起こしなど、明治時代をいろんな観点で見つめなおした良書をたくさん出されていますが、惜しくも52歳で亡くなられました。



「パンとペン」は黒岩さんの最後の本になりましたが、今や忘れられかけている堺利彦を、彼が作った「売文社」を通して新しい視点で見つめなおす力作です。「売文社」というのは今でいうならば文章を武器とした「電通」みたいなもので、いろんな人からのいろんな文章の注文をこなしたり本の執筆代行、編集請負などをする組織で、なかなか繁盛したそうです。



彼はその以前に「平民社」を作り「平民新聞」と言う左翼言論新聞を創刊したことで有名ですが、弾圧されて休刊し、その後に、このような一種やけっぱちみたいな会社を明治43年に起こしたのです。「売文」というのは、一種の自己卑下的なてらいがあるのですが、ある意味斬新で注目されました。予想通りそこには社会主義者、アナキスト、共産主義者などが集まって、一種カオス的な面白い集団になったのですが、さすがの堺利彦も御しかねて、結局大正9年に解散してしまうのです。



彼の生涯をその「売文社」中心に、生き生きと描いた大変読み応えのある作品です。



古本 買取 岸和田市

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